第3章 太平洋戦争 東京大空襲を生き抜く②~80歳起業 抜粋

※著書《80歳起業》の内容を抜粋しております。

<前回からの続き>

空襲警報の発令は、爆撃が始まってから7分経過した0時15分。
里美は、真っ赤に燃える窓の外の風景を見て、かつてない大空襲が始まったことを知り、
急いで各病室に走り出しました。

「みんな逃げて!みんな、ここから逃げて、すぐに」

里美は病院にいたら自分も危ない、しかし、看護婦としての任務があるため、
患者が逃げるのを手伝い、安全を見届けなくてはならない、その任務を必死で果たそうとしました。

「みんな、ここから逃げて、すぐにこの病院も攻撃される!」

歩ける患者は防空壕へ向かって避難しました。
又、歩けない患者は歩ける患者や看護婦と肩を組んで避難しました。

夜勤で働いていた数人の看護婦も、患者たちの避難を手伝っていました。

日頃の訓練もあって多くの患者はすでに防空壕に避難し、病院から出てない患者も残りわずかとなりました。

しかし、B29の落とした焼夷弾はあっという間に街を火の海にしました。
里美が残りの患者を防空壕へ誘導しようと、目指すべき防空壕のある方向を見たらすでに火の海でした。

先に防空壕に逃げた患者たちは大丈夫なの!?そんな心配が一瞬よぎりました。

しかし、里美は残ったわずかの患者の命を守らなくてはいけません。

「防空壕はもういけない、近くの川に逃げて!」

里美はそう患者たちに指示しました。
幸い残りの患者は比較的軽症で、歩くことはできました。

里美は患者たちが川に逃げるのを確認した後、もう一度、病院内に戻って院内に逃げ遅れた患者が
いないかを確認しました。

そしてもう誰もいないことを確認し、最後に病院を出ようとした時、
すぐ近くで爆撃があり、里美はその衝撃で倒れ、足を怪我してしまったのです。

里美は痛がる足をかばい、逃げようとしました。

しかし、思うように動けません。
外から聞こえる人たちの悲鳴で、火がすぐ近くまで来ていることもわかりました。

近くにあった窓の外に見える風景は、数百メートル先にある家が燃えていて、
しかもものすごい勢いで燃え広がるのが見えました。

里美はもう死を覚悟し、病院から逃げるのをあきらめて、
その場でしょぼんとしてしまいました。

「父ちゃん、母ちゃん、ゆみねい、ごめん・・・、もう逃げられない・・・」

へたへたとなって病室の通路でしゃがんでいる里美。
しかしその時、里美の心の中でひとつの言葉がかすかにこだましました。

『生きて・・・』

里美「え、何、今の?」

『必ず生きて帰ってくるんだよ』

由美子との最後の別れの時に由美子が言った言葉が死の間際、思い浮かんだのです。

「そうだ、最後まであきらめない」

そう思い、痛い足を引きずり、外に逃げようとしました。

里美は由美子との思い出を走馬灯のように思い浮かべていました。
死ぬ前に昔のことを思い浮かぶというけれど・・・
そういえば、最初のころはゆみねいを布団で覆って箒でぶっ叩いていたんだ

里美はこんなときに由美子と出会った頃のことを思い浮かべていました。

あの時は、ゆみねいに本当に悪いことをしたな・・・
でも、ゆみねいは厚い布団だったので痛くないって言ってたっけ。
布団!そうだ!

防空壕のある道はすでに火の海。
川のある方は距離があり、足を怪我している里美にそこまでたどり着ける保証もない。

しかもすでに火がもう回っているかもしれない。

里美はすぐ近くの病室から布団と取り、病室の隣の保管室に貯蔵してあった水を布団と自分にかけ、
外に逃げることを思いついたのです。

怪我で走ることができない里美にとっては、火の中を走って逃げることはできません。
由美子は濡れた布団をかぶって外に出ました。

しかし、もうすでに周りは火の海でした。

いや、里美には火の海どころか、前も後ろも右も左も、そして真上もみんな火しか見えません。

近くで助けを求めている人、無理とわかっても消火活動をしてそのまま火に飲み込まれる人、
近所で逃げ遅れた人も視界に見えましたが、里美は、もう考えることもできませんでした。

 

「なんとしても生きる、

生きるために逃げる、

そしてゆみねいにもう一度会うんだ」

(続く)

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